フェンウェイパークの奇跡 | 第73話
どちらとも取れる微妙な判定だったが、
マーチンは 腕組みをしたまま微動だにしなかった。
<…… それにしても、恐ろしいばかりのスピード …… マット…… か > マーチン監督は ベンチに帰って来たマットを見つめた。
自軍ベンチに向かうBBに ベラは歩み寄り話した。 「今日の試合は 奴が鍵になるような気がする。 徹底的に奴をマークしよう」
BBは漠然と前を見つめたまま 何も言わなかった。
「おい、ミッキー あのマットという新人 すんげぇ―足が速いな!」 とピートは ミッキーを見て云った
「おい、ピート 俺は嬉しくてたまらないぜ」
「何が嬉しいんだい」
「ようやく 俺を本気にさせる。 足の速い男が、出てきてくれたからよ」 とミッキーは 全身、冷や汗ビッショリなのに、 それをユニホームで隠れているのをいい事に、 ゛余裕しゃくしゃく゛ といった涼しい顔で云ってのけた
< よく言うよ、内心はハラハラしてるくせに!> とピートはミッキーの本心を読んでいた
バックネット裏の建物の屋上から試合を見ている餓狼と猛虎の2人も マットの足の速さには驚いた。
「おい餓狼、あの男の走力は尋常じゃないな」
「ああ、 俺たちの中でも1、2を争う 走力の持ち主だ 世界は広いな 」
「 まさか …… 忍者では …… 」と餓狼が呟く
「 …… 何をバカな事を …… 」と猛虎が餓狼を見た
餓狼と猛虎の表情には、ありありと動揺の色が滲み出ていた
それは まるで、二人に流れる忍者の血が、 何かを 告げているように感じてならなかった
< 足が速けりゃ 忍者になるのか、 それじゃオリンピックの短距離走の選手は、みんな忍者じゃないか。 餓狼の奴は、ときどき おかしな事を云いやがる > と八兵衛は、一人ぼやいている
7回裏
1番〇〇〇
2番〇〇〇
「兄者は一体何をしてるんだー、 もう7回が終わっちまうよ― もう来ないんじゃねぇーのか ? 本当にもぉー、 ついていけないよー おい餓狼、猛虎 今日は開幕戦だと云っておかなかったのか 」 と八兵衛はグランド内を見回しながら云った。
餓狼と猛虎は、鬱陶しそうな顔をして黙っている。
「おら、知らねぇーぞ。 お前たちは、鈍感だから何にも知らねぇーと思うが、 メジャーリーグというのは弱肉強食の厳しい世界なんだ。 生き馬の目を抜く 油断も隙もあったもんじゃねぇ― トンデモナイ世界なんだ。 開幕戦に遅刻したとあっては、罰金刑は免れねぇー。 いやっ、待てよ、 罰金刑どころか 出場停止処分だって有りえる。 いやっ、無断欠勤なら 温厚なオーナーも 兄者を首にするかもしれねぇー。 たっ、大変だー。 餓狼!猛虎!兄者が首になったらどうすんだ! お前達の責任だ。 介錯してやるから 今すぐ腹を切れ!」
「うるさい!」
「静かにしろ!」
3番カウボーイの打席
「入るか ! 入るか ! これが入ればウェインにとって、 とてつもなく大きな援護点になります」
実況担当は叫んだ。
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