フェンウェイパークの奇跡 | 第66話
今から10数年前
1人のナックルボーラーが彗星の如く現れ、
あっと言う間にスターダムへのし上がった。
その若者の名はウェイン投手。
行き先は ボールに聞いてくれ、……
それだけの覚悟を持って、ナックルボールを投げ続けられる度胸の持ち主は、
メジャーリーグにも そう多くはない。
フィル・ニークロ投手、
ジョー・ニークロ投手・
チャーリー・ハフ投手、
キャンディオッティ投手と
ナックルボーラーが続いた後、ナックルボーラーは久しく登場しなかった。
それが1992年、
とてつもなく派手な形で姿を現しナックルボーラーが一躍脚光を浴びることになる。
それはまさに、シンデレラボーイと呼ぶにふさわしい登場の仕方だった。
その若者こそが強打の内野手として
レッドソックスにドラフトされ、その後 ナックルボーラーに転向したウェインだ。
どこにどう変化するか分らないナックルボールは 相手チームの打者だけでなく、
バッテリーを組むキャッチャーにとっても、やっかいこの上ないしろものなのだ。
それはチームに合流したウェインを見た正捕手のマイクは、
すぐさま頭を抱えて座り込んだことからも窺える°
ウェイン投手はデビューのロイヤルズ戦を完投勝ちで飾ると
あれよあれよ という間に、
勝ち星を積み重ね、2カ月半で8勝をあげ、レッドソックスに貢献した。
それだけではない。
ナ・リーグのプレーオフでも
ブレーブスを相手に2勝を挙げる離れ業を演じたのである。
その投球は100%ナックルボール。
久々に現れた、まじりっけ無しの純正ナックル投手である。
ウェインは 内野手としてドラフトされ、いったんはプロ失格の烙印を押されながら、
ナックルボールで投手としてよみがえり、優勝にまで貢献したウェインの活躍は、
アメリカ人好みのサクセスストーリーとして 話題をさらった。
ヤンキースの先頭打者ヘイズが打席に入った。
「プレイボール」 と球審が 高らかに試合開始をコールした。
ヤ軍の攻撃が始まった。
ウェインが、ゆったりとしたフォームから第一球を投げた。
「ストライク!」主審が高らかにコールした。
大歓声が FWPを揺らす。
とうとう波乱万丈になるであろうシーズンが始まった
依然 忍者シゲの姿は見えない。観客は口々に騒ぎ出した。
「一体どうなっているんだ、忍者は何処にいる
「試合が始まったじゃないか 」
「忍者はメンバーに入っているのか」
「忍者は 急遽 3Aに降格されたんじゃないのか」
いつもなら、開幕試合ともなると 先発ピッチャーが無事に第一球を投げるまでは、
球場の中は一種異様な静寂に包まれるものだが、
今日の開幕戦においてファンは不安げなざわめきを発していた。
レッドソックスのベンチの中も選手同士がひそひそ話で盛り上がっている。
試合開始時刻を過ぎても、忍者の姿を見た者は誰もいない
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません