フェンウェイパークの奇跡 | 第24 話
しかし、ここ忍島に来てからというもの、ここでの出来事が三人の意識を、
ばく然としたものから、急激に確固たるものに変化する契機になったのは間違いない。
「何とかしなければ」と球団社長は呟く。
「これほどまでの卓越した投球技術を持つ忍者との契約なら
無理してでも挑戦する価値はあります。」とGMは二人を見てきっぱりと言い切った。
再び辺りは静けさに包まれた。
「まさか、こんな事になろうとは…想像を絶する困難が待ち受けているだろうな」
とオーナーは遠くを見て呟いた。
あたりが薄ぼんやりと明るくなった。
雲間に見え隠れしていた満月が姿をさらけだした。
走馬燈のように見える雲はどんどん満月から遠ざかる、
「人はさまざまな事を託されて生まれたのでは……」二人はオーナーを見つめた
「やらねばなるまい」とオーナーは覚悟を決めた
三人は困難が予想される大仕事 [忍者の招聘] に取り組む決意を固めた。
夜空には走馬灯雲の姿は、何処にも見当たらない
澄んだ空に照り渡る月は、あくまで穏やかで、三人の眼差しに応えるかのように
やさしく微笑んでいる
2月20日
ここはボストンレッドソックスのキャンプ地、
フロリダ州 フォートマイヤーズ
朝 5 時、忍者シゲは、ふらりと誰もいないグランドの一塁側ベンチの上に舞い下りた、
シゲはグランドに飛び降り、つかつかとピッチャーズマウンドに歩いていく、
そしてマウンドに向かう途中グランドの土を右手でつまみ、
地面にパラリと落とした。
<よく手入れされている> とシゲは、感心した。
シゲはピッチャーズマウンドの上に立ち、
プレート付近の土の硬さを足で踏みしめ確かめている。
<かなり硬く固めてある…>
マウンド上でシゲはセットポジションの姿勢をとろうとした時に、
一塁側のベンチから怒鳴り声がした。
「こらぁー!青い服のおまえ、手入れをしたマウンドの上で何をしているんじゃ」
顔は日焼けで真っ黒になった初老の男がシゲに歩み寄り驚いた顔をした。
「お前さんは忍者なのか、忍者が、なぜここにいるんだい、野球がしたいのか ?」
と珍しい生き物を見るような眼で見ている
「忍者シゲと云います。レッドソックスと今シーズン契約する予定です。
ここがフェンウェイパークですか。」とグランドキーパーに聞いた。
「ここはフェンウェイパークではない、レッドソックスのキャンプ地の練習グランドだ、
そんな事も聞いていないのか ? 」,
<本当にレッドソックスは、忍者と契約するつもりなのだろうか…>
と思いながらシゲに云った。
「今日、ここに来いと言われたのてすが…」とシゲは言う。
<フェンウェイパークではないのなら仕方がない。>
とシゲは一礼をしてマウンドを降りてグランドの外に出ていった。
<何なんだ…アイツは…>グランドキーパーは不思議な気持ちになった。
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