フェンウェイパークの奇跡 | 第1話
「ナックルボールも知らないで、どうして野球を語れるんだい」
ここは太平洋上に浮かぶ地図にない島 忍者島
<謎の忍者軍団>次期総帥であるシゲは、
太平洋に沈み行く夕日を眺めながら、酒を飲んでいた。
゛謎の忍者゛軍団、別名―陽炎忍者軍団。かつて日本中の各流派の忍者から恐れられた忍者
集団ではあるが。誰一人として この忍者集団の名を知っているものはいない とされている。
これまでは 謎の忍者 もしくは陽炎忍者と呼ばれてきた。
陽炎忍者と呼ばれてきた由来は 恐ろしいスピードで身体を動かす事により出来る
無数の残像が、陽炎のように見え
見る者に無数の身体を持つ魔物のように見えるところからきているという言い伝えがある。
シゲが一人静かに酒を飲んでいるところに、獣を思わせる二つの何かが、
シゲに向かって恐ろしいスピードで砂を巻き上げながら近づいて来た。
<なんだ……餓狼、猛虎……何を急いでるんだ…>
「兄者! たっ、大変だ」と餓狼がシゲに云った。
「どうした?」 二人とも、はぁはぁはぁと肩で息をして言葉が出てこない。
「はぁはぁはぁ…」 「まぁ座って一杯いけ」
シゲは盃を餓狼に回し 酒をなみなみと注いだ。
餓狼はいっきに飲み干した。「ぷはぁー旨い」
「さあー今度は猛虎 お前もいっきに行け」とシゲは盃になみなみと注いだ
大きく肩で息をしながらも 猛虎も一気に行った。 「ぷはぁー旨い」
「しかし、いつ見てもお前達は実に旨そうに酒を飲むな
見ている俺の五臓六腑に酒が滲みわたるようだ」とシゲは頬笑んだ。
猛虎と餓狼はその後二杯ずつ飲みほした。
ようやく二人は落ち着きを取り戻し話しだした。
「あっ そうだ、兄者!ボストンレッドソックスが条約に調印したらしいんです」
と餓狼が眼を剥いて云った。
「条約に…? 」 シゲは二人が何を云っているのか分からない
「確か…ワッ…ワシン… おい… 猛虎 何だっけ……」と考え込む餓狼
「あっ、そうだワシントン条約だ。」と猛虎が思い出した
「ワシントン条約… ?たしか、その条約は絶滅寸前の稀少動物を守る条約のはず
どうしてレッドソックスが調印するんだ」とシゲは怪訝な顔をして云った
「さぁー?……」と二人は言葉に詰まった。
4月19日。全米中の朝刊の一面トップに、こんな記事が踊った。
「ボストン・レッドソックス ! ワシントン条約に調印!……か?
これはメジャーリーグ史上かつてない前代未聞の契約である。」
ボストンレッドソックスは絶滅寸前のナックルボーラーのウェイン投手<38歳>と
ユニークな契約を 結んだと発表した。
それはウェイクフィールドが働ける限り、
自動的に年俸400万ドルで契約を更新していくという
もので、メディアはこれを事実上の「終身雇用契約」であり
メジャーリーグ史上かつてない前代未聞の契約であると報じ
「まれに見る英断」と称賛した。
チームと選手の関係が極めてドライなものになった今日のメジャーリーグで、
チームが特定の選手に「投げられる限り、ボストンレッドソックスは
今と同じ待遇で契約しましょう」とお墨付きをあたえるのは極めて異例のこと。
この決定はボストンの野球記者協会から出ていた。
「今や、ただ一人のナックルボーラーとなったウェイン投手は、
ボストンのクラシックな野球シーンに不可欠な存在、
ぜひ関係が切れることがないように配慮してほしい」という要望に答える形で下されたものだ。
まるで野球界におけるワシントン条約に、ボストンレッドソックスは調印したようなもの。
まさにフロントとマスコミが協調してメジャーリーグの無形文化財である
ウェイン投手の確保に動いた背景には、
「ボストンこそアメリカの伝統的な野球文化の中心である」という強い自負が なせる技だ。
ボストン レッドソックス
1901年、アリーグ創設時にボストンアメリカンズとして誕生したメジャー屈指の古豪。
不世出の大投手サイ・ヤングを擁して1903年にワールドシリーズ初代王者に輝いた。
いくつかの名称を経て1907年末からボストンレッドソックスに命名、
1912年に開場したメジャー最古の球場フェンウェイパークを本拠地とする。
1918までに5度のワールドシリーズ制覇、そしてさらに、
1920年に全米中の野球ファンを震撼させた放出劇
あの豪砲ベーブ・ルースをヤンキースへトレード、
以来レッドソックスはワールドシリーズに四度コマを進めるも、
幾たびもの衝撃的な敗戦を繰り返しワールドシリーズは全敗。
その敗戦は、常に悲劇のにおいが漂っていた。
このような魔物にとりつかれたようなワールドシリーズ史を レッドソックスファンは
ベーブ・ルースがトレードに怒って球団に呪いをかけているのだと 噂をした。
そして、バンビーノの呪い…という都市伝説が生まれた。
2004年劇的な勝利を繰り返し
ボストンレッドソックスはワールドシリーズを制覇し世界の頂点に立った。
しかし、しかしだ……
一部のファンは、「まだバンビーノの呪いは解けていない」と考えていた
その理由は地区優勝は ヤンキース、レッドソックスは地区2位
ワールドシリーズの勝利も、162試合という長丁場での
ペナントレースで勝利してこそ価値がある
べ―ブ・ルースが活躍した時代にはワイルド・カードなどというペナント・レース、
ワールド・シリーズをしらけさせてしまうファンサービスなどはなかった。
「ワイルド・カードなんて、そんなものは茶番だ おれたちの時代にはそんなものは無かった
ファンサービス、観客動員の事を考えるのは大切な事だけど
ペナント・レースが白けてしまう。俺はワイルドカードには反対だね」
と眉間に皺を寄せたベーブ・ルースの、うそぶく声が聞こえてきそうだ。
オリンピックでも一度負けると、絶対に金メダルは取れない、
良くて敗者復活戦で勝ち上がって銅メダルが限度、
162試合のペナントレースを、もっと大切に出来ないだろうか?
すべてを公平にすることは出来ないかもしれないが
ペナントレースを白けさせてしまう事だけは避けたいものだ。
それから数年後、ボストン レッドソックスはワールドシリーズ完全制覇を成し遂げた。
しかし……
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません