フェンウェイパークの奇跡 | 第65話

2023年1月19日

変化球というのは誰が、いつ、投げ始めたかが比較的はっきりしている。

 

1860年代、W・A・カミングスによってカーブ・ボールが発明されたように、

 

SFFにしても ロジャー・クレイグが、80年代の初期に考案

 

ところがナックルボールは20世紀の初頭に投げ始められたと云われるものの、

 

その素性は今ひとつ、はっきりしないのである。

 

また その変化も 実に神秘的で謎めいている。

 

投手が、ボールを投げる時、ボールを同じ位置でにぎり、

 

そして、同じ投球ホームで投げた場合。

 

そのボールの変化というのは、ほとんど限定されるものであるが

 

ことナックルボールにおいては、それは、当てはまらない。

 

ナックルボールは、ボールに爪先を立てて握り、

 

指先を押し出すようにして投げる変化球で

 

そうした動作から投じられたボールは極端に回転数が少なくなり、

 

空気の抵抗を受けてバッターの手元で思いもかけない変化をおこす。

 

しかも いったん投じられたボールが どの方向に どのように変化するかは

 

投げた投手ですら分からないのだ。

 

変化のバリエーションもさまざまで一貫性がない。

 

投手の手を離れた球は 大きく曲がりながら落ちたり、

 

蝶々のように揺れながら落ちたり、

 

フォークボールのように急激に落ちたりなど、

 

いってみれば 成り行きまかせ、風まかせの気紛れな変化球なのだ。

 

こうした風来坊的な性格は、

 

管理と計算を信条とする野球リーグでは 広く受け入れられる事はない。

 

ナックルボールだけで 投球のほとんどをまかなうような投手は

 

世界広しといえども 太っ腹なメジャーリーグ以外には見当たらない。

 

メジャーリーグには このナックルボールだけでメシを食っている投手が

 

少数ではあるが ずっと存在しつづけている。

 

49才まで投げたホイト・ウィルムヘルム、

 

フィルとジョーの ニークロ兄弟。

 

チャーリー・ハフ、

 

トム・キャンディオッティ、

 

ティム・ウェイクフィールド、

 

スティーブ・スパークス

 

ヘイガー、

 

R・A・ディツキー

 

これまでナックルボーラーは

 

まるで消えゆく遺物のように云われてきているが、

 

実際は、なかなかどうして.しぶとく生き延びて

 

バッターを悩ませ続けているのである。