フェンウェイパークの奇跡 | 第63話

2023年1月19日

球団発表によると

 

この処置は, 選手と報道陣の安全を確保するための苦肉の策であるという

 

しかし、こんな仕打ちにあっても、そうやすやすと引き下がる者たちではない。

 

今度は球団職員たちへとターゲットを変えた。

 

だが記者達が望む話しは ひとつも出てこなかった。

 

記者達が取材する すべての者が、口裏をあわせたように

 

“知らない“  を繰り返した

 

広報担当の話によると、ここ一週間での忍者への取材の申し込みは、

 

去年1年間のレッドソックス全体での取材数を大幅に上回ったと発表された。

 

このような取材攻勢が続くなかでの開幕戦。

 

ここまでくると レッドソックスたちにとって 開幕どころの騒ぎではない

 

レッドソックスたちは 突然舞い降りた、

 

これまで経験したことのないプレッシャーと不安を

 

必死になって闘争心に転化しようとしている。

 

「当分の間は 期待出来そうにもないな……」

 

マーチンは 隣にいるヤングコーチにそっと囁いた。

 

苦笑するヤングコーチ。

 

しかし 問題はそれだけでは無かった。

 

試合が始まろうとしているのに、忍者の姿を誰も見た者はいない。

 

「おい、忍者は どうした、まだ来てないぞ」

 

とマーチン監督は 不機嫌な顔をしてベンチ裏にいる球団職員に聞いた。

 

「……」戸惑う球団職員は 何も言わない

 

「忍者は、来るのか来ないのか、どっちなんだ」

 

「わかりません」と球団職員は答えた、

 

「わからないだと ……  どういう事だ!」

 

「忍者が どこに住んでいるか、誰も知らないんです……」

 

「誰も………  連絡はつかないのか、電話するとか 何か出来るだろう…… 」

 

「誰も電話番号は知りません、

 

番号どころか電話機が有る事じたい 忍者は 知らないんじゃないかと……」

 

「……… それと …… 」と球団職員が口ごもった

 

「まだ何かあるのか!」

 

「忍者シゲのパスポート・ビザについても、

 

これまで誰一人事務処理した者はいないんです」

 

球団職員は戸惑っている。

 

<そんなバカな事があるのか…・… >呆然と たたずむマーチン監督