フェンウェイパークの奇跡 | 第 8 話
GMは、今のヒットは二塁でのクロスプレーになると思っていたが、
打者走者は2塁を回り、塁間の半分ぐらいのところを走っていた。
ライトからの送球を受けた中継の遊撃手は、ボールを捕るや、
振り向きざま3塁に投げようとしたが、投げるのを思いとどまった。3塁は楽々セーフであった。
<なっ、何という足の速さ…>
まさしく棟梁が言ったように、手裏剣を応用した訓練。11
オーナー・球団社長・GMは八兵衛の屋台で棟梁の話を聞いていたが
忍者がピッチャーを本当に出来るのかと半信半疑であったのが、
ここにきてようやく事態が飲み込めてきた。
これなら忍者シゲが実力さえあればメジャーリーグのマウンドに立つ事も夢ではないと感じた。
GMは試合を見ていてかなりのレベルの高さに驚いている。
GMがまず最初に眼を見張ったのが、赤と白に分かれて戦っている両チームのピッチャーだ。
赤のチームのピッチャーは少なくとも155キロ以上のスピードボールを打者に向かって投げて
いる。
そして、その剛速球をいとも簡単に打ち返す打者、
打ち返すといっても、バットではない、固い木を刀の形にした木刀だ。
明らかにバットよりも細い。 白のチームのピッチャーはすべての変化珠を投げ分けている、
それも物凄い切れ味を持っている変化球だ。
しかしその強烈な変化をもこの忍者たちはいとも簡単にはじき返している。
どれもこれも凄いことだらけだが、やはり一番目を引くのが打撃、
メジャーリーグの野球で例えれば打者が投手の投げるボールをホームベースの上に立ち、
待ち構えてバットで払いのけることだ、
<打者に向かって来たボールを、空振りでもすれば骨折や打撲では済まないだろう……>
と三人は背筋が凍った。
しかし、三人の心配も、どこ吹く風と忍者打者たちは、忍者投手が投げる木のボールを
身体に引き付けるだけ引き付け、
片手一本で、強烈な打球を、いとも簡単に右へ左へ打ち分けている。
バットで打ち分けるのではない。バットの厚さ1/3程の木刀なのだ。
<信じられない……> <こんな事が……>
<死と隣り合わせ…一体これはどお言う事なんだ!……忍者は命を賭けて野球をしている…・
…何故なんだ。> 三人は理解に苦しんでいる。
しかし、理解に苦しむのは、これだけではなかった。
忍者打者が、センター前に抜ける強烈なゴロを打った。
二塁手は、飛びついてゴロを掴み、すぐさまボールを拾い上げ一塁へ投げた。
間一髪、判定はアウト。この判定に怒った忍者打者走者が、
一塁塁審<忍者>に抗議を始めたと思いきや、
あっと云う間に、両チーム入り乱れて乱闘が始まった。
次の瞬間オーナー達三人に戦慄が走った、乱闘 と云っても殴り合いではなかったのだ。
審判が、背に担いだ忍者刀を抜くや否や、
それを待っていたかのように、グランドにいる忍者全員が、
背に担いだ忍者刀を抜き、斬り合いが始まった。
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