フェンウェイパークの奇跡 | 第19 話

2023年1月18日

<10球連続… まさかボールに細工を…>コーチは しげしげとボールを見つめている。

 

「ダイエーホークスが使用している試合球を持ってきてもらえませんか、

 

兄者も慣れた方がいいですから 」とダイスケが気を利かして云った。

 

「みずちゃん、新しいボールを持ってきて 」

 

と杉本投手コーチは プロテクターとレガースを着けた若い捕手に云った。

 

シゲの投球練習は再開された。

 

「兄者、横揺れ」

 

コーチが構えると、後にいるダイスケが云ったシゲは頷き、投げた。15

 

ボールは捕手の5mあたりから今度は左右に40㎝程の振幅をくり返して来た。

 

<今度は横か… >コーチはミットの土手に当てて落球した。

 

「おいおい… 何でボールが 左右に何度も揺れるんだ

 

「あんなの捕れねぇーぞ」コーチ・ダイスケ・トシハルの後ろには

 

いつの間にか人だかりが出来ている。

 

「兄者、今度は渦巻」シゲは 再び頷きセットポジションの構えから魔球を投げた。

 

シゲが投げた途端ボールは渦を巻くように進みだした。

 

丁度 縦揺れと横揺れのおきる中間になれば、ボールはバネのような軌道で前にすすむ。

 

 

 

どういう現象かと云えば

 

縦揺れの時ボールが上に浮くそして次に下に行く前に横揺れの現象が入り

 

横に移動してから 縦揺れの下に移動する、

 

そして再び横に移動して今度は上昇する。

 

これを繰り返していけば ボールは円運動をしながら、

 

バネのような軌道でストライクゾーンに進むことになる。

 

球を受けるコーチも含め魔球を見ているすべての者は驚きの声をあげた。

 

中には頭を抱え込む者まで出てきた。

 

<俺は、ほとんどミットの芯で取っていない… 果たしてバットの芯で打つことが出来るのか…

 

おまけに 横揺れと言えば 横揺れを・・・・・・ 縦揺れと言えば 縦揺れを・・・

 

渦巻と言えば 渦巻状のナックルボールを投げている………

 

人間がナックルボールを投げ分ける事なんて出来るのか…… ?

 

これは…… 大変な事になるぞ…… >コーチは呆然とシゲを見つめた。

 

「よくそんな握りで、ボールを投げることが出来るね」と寺岡二軍監督が云った。

 

知らない間にシゲの後ろに来ていた寺岡二軍監督と杉本投手コーチが感心している。

 

「メジャーリーグのナックルボーラーの投げ方とは違いますが、

 

私にはこれが一番合っていますので」とシゲは答える。

 

「いつから投げているの?」

 

「5年ぐらい前からです」

 

「5年で…」

 

「はい」

 

「それじゃー 野手から打席に立たすから、投げてください」

 

「分かりました」 シゲはマウンドに向かった。