フェンウェイパークの奇跡 | 第 2 話

2022年7月28日

夢の中……

 

レッドソックスがワールドシリーズを完全制覇して、3日後のAM2:00

 

レッドソックス・オーナー宅 寝室の柱時計が二つ鐘を打った

 

その瞬間 バチバチバチと電気の弾ける音がしてテレビがついた

 

オーナーは飛び起きた <なっ、なんだっ、どうしてテレビが…>

 

オーナーは、寝ぼけ眼でテレビを消そうとベッドから降りた

 

するとテレビから大歓声が聞こえだす、

 

ヤンキースの古めかしいユニホームを着た左バッターが 打席で外野スタンドを指差した

 

大観衆の歓声と罵声が 一段と大きくなりフェンウェイパークに響き渡る

 

<ベッ…… ベーブ・ルース!>オーナーは驚いて画面に釘付けになった。

 

「これは予告ホームランを意味しているのでしょうか ?」

 

と大歓声に混じって実況担当が大声を張り上げた。

 

オーナーは、ふとテレビのコンセントに眼をやり、呆然と立ちつくした。

 

<でっ 電源が入っていない……> 大歓声の中、ホームランを打ったルースが、走りだした

 

一塁・二塁・そして三塁を回りホームベースを踏んだ、

 

ルースは何を思ったのか、蜂の巣を突いた様な大騒ぎのダグアウトに帰らず、

 

テレビカメラに向かって走って来た。

 

しかめっ面をしたルースはカメラを覗きこむようにして、何かを口走った、そして映像は消えた。

 

<…… 一体どう云う事なんだ ……>

 

レッドソックスがワールドシリーズを完全制覇して 一週間がたった

 

オーナーとGM、そして球団社長は、今もなお、何かが くすぶり続けていて、

 

未だにワールドシリーズの勝利を手放しで喜べていなかった。

 

レッドソックスがワールドシリーズ完全制覇をして、10日後のpm8:00

 

オーナーはバックネット裏のオーナー観戦室で、浮かない顔をしてグランドを眺めていた。

 

「本当に世界一になったのだろうか。世界一になるということは、こんな気分なのだろうか?」

 

とオーナーは、机の上の赤いコーヒーカップに手を伸ばし、コーヒーを一口飲んだ、

 

<冷たい…秘書にコーヒーを頼んで一時間以上経っていたのか… >と又暗い表情になった。

 

一方、球団社長もGMもオフィスでオーナーと同じような気分に悩まされていた。

 

< 何かしっくりいかないなぁー でも俺達は世界一になったんだ >

 

と自分に言い聞かせてはいるものの……

 

三人共々、別々の部屋にいるものの、考えていることは一つ、

 

<ひょっとして……バンビーノの呪いは…まだ生きているのでは…… >

 

オーナーは球団社長とGMに電話で「今夜、少し いいかい」

 

と沈んだ声で八兵衛の屋台に誘った。

 

二人は気晴らしにはいいか、と思い二つ返事でOKを云った。

 

オーナーは二人に「それじゃー10時に」といって受話器を置いた。

 

<10時まであと2時間、さぁー仕事を片付けよう >と三人は仕事に取りかかった

 

午後10時少し前、ホームで試合がある時には深夜まで人で賑わうFWP周辺

 

その喧騒からほんの少し離れた場所に屋台「八兵衛」があった。

 

「こんばんは、八兵衛さん」 「いらっしゃい、皆さん、お久しぶりです。」

 

八兵衛は、暖簾をくぐる三人にいつもの調子でこたえた。

 

三人は屋台の椅子に腰を下ろし「いつもの 」とオーナーは八兵衛に言う。

 

いつもの とは<熱燗にオデン>  熱燗とは日本酒を徳利に入れ人肌に暖めたもの

 

おでんとは昆布と鰹節で取った出汁でアゲ、竹輪,がんも、コンニャク、大根などを

 

一つの鍋で煮たものを云う。

 

三人は辛子を使い辛さを楽しみながら お猪口でお互い酒を酌み交わしながら、

 

ちびりちびりと日本酒を飲むのを楽しみにしている。

 

「オーナー・球団社長・GM完全優勝おめでとうございます。

 

本当に良かった。あっしも自分の事のように喜んでおりやす

 

今夜はあっしの奢りです。思う存分、飲んで、食って楽しんで下さい。」と八兵衛は云った。

 

八兵衛は、三人のお猪口に忍者島の地酒を注ぎ、皆で「乾杯!」と祝杯をあげた。

 

四人は一時間ほど、ワールドシリーズ制覇までの道のりを、苦労話などを交え談笑していた。

 

すると、オーナーは何かを思い出したのか急に深刻な顔をして球団社長・GMを見つめた。

 

「7日前の午前二時に奇妙な体験をしたんだ、笑わないで聞いてくれるか」と切り出した

 

球団社長・GMも<午前二時>という時間に何か思い当たる様子。

 

「柱時計の鐘が二度鳴り、午前二時を告げると急にテレビがついたんだ。

 

そして古めかしいヤンキースのユニホームを着た男が打席に立っていた」

 

「オーナーそれは、ベーブ・ルースでは……」と球団社長は云った。

 

オーナーとGMはびっくりして球団社長を見た。

 

「そしてスタンドを指差しホームランを予告し…そして打った……」とGMは続けた。

 

今度はオーナーと球団社長が目を見開いてGMを見た。

 

<皆、見たんだ…>三人の背中に夜風が吹きつける。

 

「おかしな事に寝室のテレビには電源が入っていなかったんだ。

 

でも……あれは、絶対…夢ではなかった。」とオーナーは云う。