フェンウェイパークの奇跡 | 第19 話
<10球連続… まさかボールに細工を…>コーチは しげしげとボールを見つめている。
「ダイエーホークスが使用している試合球を持ってきてもらえませんか、
兄者も慣れた方がいいですから 」とダイスケが気を利かして云った。
「みずちゃん、新しいボールを持ってきて 」
と杉本投手コーチは プロテクターとレガースを着けた若い捕手に云った。
シゲの投球練習は再開された。
「兄者、横揺れ」
コーチが構えると、後にいるダイスケが云ったシゲは頷き、投げた。15
ボールは捕手の5mあたりから今度は左右に40㎝程の振幅をくり返して来た。
<今度は横か… >コーチはミットの土手に当てて落球した。
「おいおい… 何でボールが 左右に何度も揺れるんだ
「あんなの捕れねぇーぞ」コーチ・ダイスケ・トシハルの後ろには
いつの間にか人だかりが出来ている。
「兄者、今度は渦巻」シゲは 再び頷きセットポジションの構えから魔球を投げた。
シゲが投げた途端ボールは渦を巻くように進みだした。
丁度 縦揺れと横揺れのおきる中間になれば、ボールはバネのような軌道で前にすすむ。
どういう現象かと云えば
縦揺れの時ボールが上に浮くそして次に下に行く前に横揺れの現象が入り
横に移動してから 縦揺れの下に移動する、
そして再び横に移動して今度は上昇する。
これを繰り返していけば ボールは円運動をしながら、
バネのような軌道でストライクゾーンに進むことになる。
球を受けるコーチも含め魔球を見ているすべての者は驚きの声をあげた。
中には頭を抱え込む者まで出てきた。
<俺は、ほとんどミットの芯で取っていない… 果たしてバットの芯で打つことが出来るのか…
おまけに 横揺れと言えば 横揺れを・・・・・・ 縦揺れと言えば 縦揺れを・・・
渦巻と言えば 渦巻状のナックルボールを投げている………
人間がナックルボールを投げ分ける事なんて出来るのか…… ?
これは…… 大変な事になるぞ…… >コーチは呆然とシゲを見つめた。
「よくそんな握りで、ボールを投げることが出来るね」と寺岡二軍監督が云った。
知らない間にシゲの後ろに来ていた寺岡二軍監督と杉本投手コーチが感心している。
「メジャーリーグのナックルボーラーの投げ方とは違いますが、
私にはこれが一番合っていますので」とシゲは答える。
「いつから投げているの?」
「5年ぐらい前からです」
「5年で…」
「はい」
「それじゃー 野手から打席に立たすから、投げてください」
「分かりました」 シゲはマウンドに向かった。
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